Aさん
心豊かに大きくなあれ
- 「みーなーさん」と先生が大きな声で歌うように呼びかけると、年中さんのお部屋に集まった全園児が一斉に先生のほうを向きました。みんな「先生これから何するの?」「何が始まるんだろう」そんな期待を込めたキラキラした目で、次に先生が何て言うのかドキドキしながら待っているように見えました。 そして始まったのは音楽に合わせたダンス。「やった!」「待ってました!」満面の笑顔で目一杯ダンスに夢中になる子供達。そして子供達に負けず指先までバシッとキメたノリノリダンスの先生。
2歳になったばかりの息子を連れて初めて参加したひよこ組は衝撃的でした。 どの子もみんな楽しそう。そして先生と子供の距離感、なんて近いんだろう。「子供の目線に合わせて…」と聞いたことはあるけど、ただ単に地面にひざをつけて目線を合わせることではなく、こういう事なのかなと思いました。子供の心を先生が大事にしている。先生と子供の心が近い。うまく表現できませんが、何かそういった信頼できるものが園生活を通して先生と子供達の間に築かれているように見えました。
こうして先生にゾッコン一目惚れしてしまった私は迷わず「ここの幼稚園がいい!」と決意しました。
さて、入園してみるといろんな性格の子がいます。おとなしい子も積極的な子もあどけない顔でキャッキャ、キャッキャと楽しんでいるようですが、時には気持ちをうまく言葉に出来きれなかったり、ちょっと意地になってお友達に優しくできなかったりしてケンカしてしまうときもあります。でも小さいながらにケンカの理由や経緯があって、本当は罪悪感を感じていたりもするんだけど素直になれなかったり、まだまだ自分の気持ちを譲れなかったり。ただ、毎日30人近くの子供達と一緒にいる先生は、そんな子供の特徴をもうとっくによーく解っていて、ケンカの理由を聞いて仲直りのチャンスを作ってくれたり、切なかった胸の内を癒してくれたり。それで終わるのではなくその後にどんな気持ちが芽生 えるか、そこまで考慮しての導きで、その子に合ったさりげない加減で手を差し伸べてくれていると思います。
また子供は好奇心旺盛でママが「ダメ!」と言っても、後で怒られるかもしれないけど、気になったことはとにかく何でも自分でやってみたい。でも気になったことをやってみたいのも、そういう一つ一つの経験を通していろんな事を学んでいくのでしょう。先生は危ないことはもちろん注意して、子供が好意でくれたダンゴムシを笑顔で受け取ってくれたり、子供の大好きな折り紙やセロハンテープをいっぱい使わせてくれたり。注意と黙認のタイミングや程度も私よりずっと若い先生なのに上手だなあと思います。
親としてはケンカすれば「ケンカしちゃダメ」とか「謝りなさい」とすぐ言ってしまったりするし、ちょっとでも特異なことをしようとしたら「やめなさい」とガミガミ言ってしまいがち。
園バスのない幼稚園への送り迎えを通し、先生から園生活の様子を聞いたり、降園後に小一時間子供達が遊ぶ様子を見ていて、私自身も少しずつ、でも数多くの事を学んだように思います。初めての子供で手探りで始まった子育てでしたが、子育てを楽しく思える時間が以前にも増して多くなりました。
早いものであっという間に年長さん。小さな園庭をその影で覆ってしまうような桜の大木の下で、所狭しと走り回る子供達を見ながら、残り少ない幼稚園生活を切なく感じつつ、目一杯楽しんで心も身体も大きく育ってほしいと密かに思い、今日も私は幼稚園の園庭で時を過ごすのです。